歯の根の治療

 虫歯が大きくて、神経にまで感染が進んでいた場合、根の治療が必要になります。根の治療とは何のことでしょう?虫歯が神経まで行ってたらどうなるのでしょう?"神経を取る"、"根のウミを取る"、などとも言われる治療です。
根の治療は、とても複雑な治療です。詳しく説明していきます。

虫歯の進行と痛みの具合

 歯は、一番外側をエナメル質が覆っています。
 その内側に象牙質があり、さらに内側に神経があります。
 下のイラストの中央の歯の場合、外側の白い部分がエナメル質、中の赤い部分が神経、白と赤の間の黄土色の部分が象牙質です。

歯の内部イメージ

エナメル質の虫歯

 エナメル質は、骨よりも硬い構造をしています。フッ素やカルシウムを取り込むことで、より強くなります。
 エナメル質に限局した虫歯は、ほとんど痛みを感じません。穴が空いたところに食べ物が詰まって痛むことはあります。

象牙質の虫歯

 象牙質は、エナメル質と比べるととても軟らかいです。軟らかい分、虫歯が広がりやすく、進行も速くなります。
 虫歯がエナメル質を突破して、象牙質に達した場合は冷たいものが沁みるようになっていきます。神経に近づくにつれて、熱いものも沁みるようになってきます。

神経に達する虫歯

 虫歯が神経まで進むと、何もしなくでも痛い状態になります。痛みは夜間に強くなり、寝ることもできないような痛みになることもあります。”根が膿んでいる”と表現する方もいらっしゃいます。
 この状態にまで虫歯進行してしまうと、”神経をとる”あるいは”根の治療をする”と言われる治療が必要になります。

歯の神経はできる限り残した方がいい理由

 歯の中の神経は、血管も一緒に通っています。血管は、歯に栄養を行き渡らせています。神経の治療をするとその血管も一緒にとってしまいます。そのため、歯には栄養が行き渡らなくなり、乾燥した状態になってしまうのです。栄養がなく、乾燥した状態、それは切り落とした木のような状態です。神経が元気な歯と比べると、強い衝撃で割れてしまう可能性が高くなります。割れてしまった歯は、ほとんどの場合抜歯になってしまいますので、そうなる前に補強が必要です。

歯の内部イメージ

神経をとる治療の術式

 虫歯が神経まで進んでしまった場合、根の治療が必要です。治療をせずに放っておくと、根の先に膿の袋ができてしまいます。眠れないような痛みになることもありますので、注意が必要です。

麻酔

 歯茎に表面麻酔を塗ります。その後、麻酔をします。麻酔の針は極細のものを使用しますので、痛みを最小限に抑えることが可能です。

感染防御

 唾液1mlの中には、1億個以上の細菌がいます。この細菌が歯の根の中に入ると感染を引き起こす原因となってしまいますので、感染防御が重要です。
 当院ではラバーダムというゴムをかけて、お口の中の汚れや唾液が根の中に入ってしまうことを阻止しています。

感染防御しているイメージ

感染物質の除去・洗浄

 虫歯を除去し、根の中を洗浄します。肉眼では見えない部位の清掃になります。清掃は、1回で済む場合もあれば、数回かかる場合もあります。根の中を確実に洗浄するには、CTで根の状態を確認し、マイクロと呼ばれる顕微鏡を使って清掃する必要があります。当院には、CTもマイクロも完備しておりますのでご安心ください。

感染物質の除去しているイメージ

薬を詰める

 根の洗浄が終了し、膿が見られないことが確認できたら、最終的なお薬を詰めていきます。薬を詰めたら、レントゲンやCTを撮影して、状態を確認します。

詰め物・被せ物をする

 菌が再び根の中に入らないように、封鎖します。封鎖の方法は大きく分けて2種類あります。

 全てのケースに当てはまるわけではありませんが、歯を長持ちさせたいなら被せ物の歯を入れましょう。

 神経を取った歯は、元気な歯よりも割れやすい状態です。
 削った穴を埋めるだけでは、大きな衝撃に耐えられず、歯が割れてしまうことがあります。割れてしまった場合、その歯は抜歯しなければなりません。
 一方、被せ物は、歯の外側をぐるっと覆うことで歯を補強し、縦に割れてしまうことを防ぐことができます。歯にヒビが入って痛みが出ている方も、このように覆うことで痛みが落ち着いて以前のように噛むことができる場合があります。

根の治療が難しいと言われる理由

 下のイラストの赤い部分が歯の神経です。歯の中心を通っています。神経の通り道は非常に複雑です。

歯の内部構造イメージ

 奥歯のように大きい歯の場合、神経の通り道は最低でも3本あります。狭窄していたり、曲がりくねっていたりと、分岐したり交差したり、非常に複雑です。従来の根の治療は、直接見ずに耳かきのように清掃していました。これでは、綺麗に清掃することはほぼ不可能です。確実な清掃には、CTを撮影して3次元的に根の形を精査すること、マイクロと呼ばれる顕微鏡を用いて細部まで見ながら除菌することが必須です。更に、3本の通り道は一本道ではなく、根の先の方は側枝(そくし)と呼ばれる分岐がたくさんあります。分岐を直接消毒することは難しく、超音波の振動を与えたり、専用の薬液を使用することで汚れを浮かばせて除去していきます。そのためには、洗浄しやすい形態に根の形を整えることが非常に重要となってきます。

感染物質の除去しているイメージ

 また、再感染防止の対策も非常に重要です。お口の中の菌を根の中に入れ込まないように、壁を作ったり、ゴムをかけたり、緊密に薬を詰めたりなど、技術の必要なポイントがたくさんあります。
 アメリカでは、根の治療の専門医がいます。彼らは根の治療のみを行います。それほどにまで、根の治療は難易度が高いのです。日本でも、根の治療の専門医が増えてきています。専門医の治療は、基本的に保険外診療です。当院では、上記の治療を保険診療で対応させていただいております。しかしながら、一度治療した根の再治療は特に難易度が高いため、症例によっては専門医をご紹介させていただく場合がございます。